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コレステロールの代謝調整による新たなガン治療法

またしばらくサボってました。


現在、日本では亡くなる方の約30%の方がガンによるものだそうです。様々な手術法や、抗ガン剤、検査方法なども開発されているにもかかわらず、がんで亡くなる方の割合は増えているそうです。数年前からガンの治療方法として、体内にあるCD8+T細胞などの免疫細胞にがんを排除させる、ガンの免疫療法が注目されています。有名なものではPD-1というT細胞表面にあるタンパク質に注目した治療法です。PD-1が刺激されるとT細胞の抗原への攻撃が抑えられるため、ガン細胞はPD-1のリガンドを発現し、PD-1を刺激し、免疫細胞の攻撃を抑えているということが知られています。そこで、抗PD-1の抗体を用いて、免疫細胞の攻撃力が抑えられない様にするという研究が行われています。今回紹介する研究ではこれとは別に、コレステロールの代謝がCD8+T細胞の攻撃力にとって重要な役割を担っていることを報告しています。

 

コレステロールというと、生活習慣病の原因になる体に悪いものと思う人もいるかもしれませんが、本来細胞の膜を作るために欠かせないもので、免疫細胞にとってはT細胞のシグナル活性や機能を制御する非常に重要な物質です。この論文ではまず、CD8T細胞は活性化するとコレステロールレベルとともにコレステロールのエステル化を行う遺伝子ACAT1の発現が増加していることを発見しました。次にACAT1の効果を阻害する化合物やCD8T細胞のみでACAT1をノックアウトする条件付ノックアウトマウス(conditional knockout)を使用し、IFNGなどのインターフェロンが活性化しており、コレステロールのエステル化がCD8T細胞の免疫機能を調整していることが分かりました。さらに、皮膚及び肺のメラノーマモデルをACAT1条件付ノックアウトに注入し、寿命等を調べると、CD8+T細胞が強く活性化しており、寿命も延びることを発見しました。免疫力活性化のメカニズムを調べてみると、 TCR signallosomeが大きくなることと、より効率的に免疫シナプス(T細胞と抗原提示細胞とが接着するとできる、細胞をつなぐ接着分子のことで、活性化に重要なもの)が作られることにより免疫力が増加するということが分かりました。最後にがん治療への可能性を探るため、AvasimibeというACAT1阻害剤を使用してみたところ、avasimibeだけでも良い結果が得られましたが、抗PD-1抗体と組み合わせることでさらに良い結果が得られました。

 

Avasimibeは過去に臨床実験も行われ、安全性も評価されているそうで、実用段階までは比較的早いかもしれません。完璧に治るというわけではないでしょうが、新たなアプローチとして期待されます。


元の論文

Potentiating the antitumour response of CD8+ T cells by modulating cholesterol metabolism

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薬品だけで皮膚の細胞を心臓の細胞に変えることに成功

ウイルスなどを用いた形質導入や形質変換などの遺伝的な操作を行わず、試薬だけで細胞を変換することに成功したという論文がGladstone instituteよりありました。scienceとcell stem cellから公開されました。scienceの方では皮膚の細胞を心筋に、cell stem cellでは神経幹細胞へと変換できたそうです。今回は両方を簡単に紹介します。

以前からも皮膚の細胞を心筋や神経幹細胞に変換するすることは可能でした。しかしそれには遺伝的な操作が必要なのですが、これが非常にめんどくさいし、結構お金もかかる。しかもiPS細胞を作るの使われるc-Mycなどはがん遺伝子として悪名高く、点変異を引き超す確率も高く、安全性の心配もあります(iPSの臨床試験の一例目は成功しています。ちなみに二例目はほんのごくわずかな変異があり、念のため取りやめました。この判断が正しいという意見と慎重すぎるという意見で論争があったのはまた別のお話し)。そこで簡単、安全な小分子を混ぜるだけで細胞種を変換で来たらいいのにという需要は以前からありました。そして今回その手段を開発したのです。

まずscienceの方では、心筋のマーカー遺伝子(alpha myosin heavy chain)のプロモーターで制御されるGFPを用意し、皮膚の細胞に導入します。そしてそこへ細胞のリプログラミングを誘導または促進する試薬と、心筋新生を誘導する試薬を様々なパターンで混ぜていき、スクリーニングを行いました。はじめは89種の試薬を使い、様々な組み合わせを確かめていきました。最終的に残った化合物が以下の9個。
CHIR99021 – GSK3 inhibitor that activates the Wnt pathway
A83-01 – TGF-beta receptor inhibitor that inhibits TGF-beta signaling 
BIX01294 – GLP and G9a histone lysine methyltransferase inhibitor 
AS8351 – Histone demethylase inhibitor 
SC1 – ERK inhibitor 
Y27632 – ROCK inhibitor 
OAC2 – Reprogramming booster 
SU16F and JNJ10198409 – PDGF receptor inhibitors
20~30日間の培養後、遺伝子発現、エピゲノム、電気生理学的な特徴を調べていくと、通常の心筋と非常によく似ていたそうです。

cell stem cellの方でも同様に皮膚の細胞からスタートです。こちらはクロマチン修飾因子、シグナルパスウェイ調節因子、成長因子を使用し、スクリーニングを行いました。
CHIR99021 – GSK3 inhibitor that activates the Wnt pathway 
LDN193189 – Inhibitor of BMP type I receptor ALK2/3 that prevents Smad phosphorylation 
A83-01 – TGF-beta receptor inhibitor that inhibits TGF-beta signaling 
Retinoic Acid – Enhances neural differentiation 
Hh – Smo agonist that can promote neural differentiation 
RG108 – DNA methyltransferase inhibitor 
Parnate – Histone demethylase inhibitor 
SMER28 – Autophagy modulator
こちらも10日ほどの培養すると、マーカー遺伝子の発現や、自己複製能、in vivo及びin vitroでmpニューロン、アストロサイト、オリゴデンドライトへの分化などの点で、本来の神経幹細胞とよく似ていたそうです。

これまでの方法と比較して、再生医療を行う上での安全性やコストの面で大きなアドバンテージとなるでしょう。今後効率の向上し、他の種類の細胞を作り出すが可能になれば再生医療において主流になる可能性が高いと思います。

今回紹介した論文


STAP現象が確認されたという記事について

すごい久しぶりの更新になります。今までサボってました。

なぜ久しぶり更新しようと思ったかというと、あまりにひどい記事があったから。
友人から、STAP現象が確認されたという記事が話題になっているということを聞き、それを見たのですが、とにかくひどかったです。(ちなみに見たのはBusiness JournalのSTAP現象の確認に成功、独有力大学が…責任逃れした理研と早稲田大学の責任、問われる 文=大宅健一郎/ジャーナリストという記事です。)先に結論から言うと、論文の著者はSTAP現象を確認しているとは言えないし、実際そんなこと一言も言ってない。なのに日本語の記事を書いた人は著者の結論を曲げて、確認できたといっているのです。

本題に入る前にSTAPについて確認しましょう。ざっくりいうと、STAPは正常な体細胞を酸性条件で処理したら一部生き残る細胞がいて、その細胞はどんな細胞にでもなれる能力(多能性)を獲得していたというものです。

まずは著者はどんな実験をしたのかを見ていきましょう。論文はModified STAP conditions facilitate bivalent fate decision between pluripotency and apoptosis in Jurkat T-lymphocytesというものです。
著者らが言うには、jurkatという、白血病患者由来T細胞をpH3.3という酸性条件(元のSTAPの条件から少しだけ変えた条件)で処理したら大半はアポトーシスを引き起こし死んでしまったが、少し生き残った。酸性条件でふるいをかける過程ではOct4などの遺伝子の発現は見られなかったが、生き残った細胞を調べてみると、AP+の割合が増えた。ただし、ガン幹細胞や造血性幹細胞のマーカーも見られなかった。とのこと。

じゃあもう少し解説しましょう。まずこの論文で多能性を獲得したとする根拠は酸で処理した後生き残った細胞はAP+になったということだけ。APとはアルカリフォスファターゼという遺伝子のことで、この遺伝子を大量に作る細胞をAP+(alkaline phosphatase positive )と書いたりします。胚性幹細胞などの多能性をもつ細胞はAP+であるという特徴がよく知られていて、多能性マーカーの一つになっています。で、酸で処理した後生き残ったjurkatも幹細胞同様AP+となったとのこと。ここまでは良いです。ただし、AP+となるのは多能性マーカーの一つにすぎません。他のマーカー、例えばoct4とかの発現も確認されていません。しかもほかの細胞に分化できることを確認する実験を行っていないので、本当に多能性があるとは言えません。従ってSTAP現象が確認できたとは言えません。
ついでに言うと、今回は正常細胞ではなく、がん細胞を使っていて再生医療にとっての重要性はないです。逆に言うなら、がん幹細胞マーカー遺伝子の発現も発現してないので、酸で処理しても、正常細胞もがん細胞も幹細胞になることはできなかったとすらいえます。

まあ確かに著者たちもキャッチーな論文にしようとしたのか、STAPとかpuluripotencyというワードを使ったのは若干問題な感じはありますが。

関係ないけど記事の中で「常識を逸脱した禁じ手まで使って論文をなきものとして責任逃れをした理研や早稲田大学」とありました。常識を逸脱した禁じ手ってなんでしょうか?論文を撤回したこと?文章や画像の剽窃やら不適切な画像処理やらが満載な論文を撤回しないほうがどうかしています。理研は1000万円を超えるお金と約1年間の時間をかけて再現実験まで行っているのに、これ以上なにをすれば責任逃れをしていないとこの記事を書いた人は納得するのでしょうか。

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ガンのワクチンは作れるか

人用のガンのワクチンを作製することに成功したという報告がありました。

手法はガンで見られる変異タンパク質を抗原として、ワクチンを作製します。ガンワクチンを作製しようという試みは昔からありましたが、あまりうまくいっていませんでした。これまではガンで多く発現するタンパク質を抗原として作製していたため、正常細胞でも少し発現しているというのが問題になっていました。近年ガンのゲノムシーケンスのデータが集められ、ガンでよく見られる変異が分かってきました。そのため、変異タンパク質を抗原として、ワクチンを作製できるようになったわけです。変異タンパク質ならば正常細胞には存在しないため、良い結果が得られるだろうと期待されます。ワクチンの作製方法としては、患者から白血球を取り出し、抗原提示細胞である樹状細胞を作り出しました。その細胞に変異タンパク質を曝し、成熟させた後に体内に戻すことで、同一の抗原がきたときに免疫細胞にその情報を提示できるようにしています。昨年の段階でマウスで成功しており、今回はメラノーマ患者に対して行ったものです。

まだ、ほんの数人に対して行ったものに過ぎず、実際に臨床で応用するには超えなければいけない壁はたくさんあります。しかしうまくいけば、変異のタイプに応じた個別化医療も可能になるでしょう。

元の論文
A dendritic cell vaccine increases the breadth and diversity of melanoma neoantigen-specific T cells

DNAのメチル化が男女の脳の差を決めている

以前、このブログで学位取得者に男女差があることに触れました。問題はなぜそのような違いが起きるかです。今回、生まれる前と後の間に、メスのラットの脳では正常な発生のために鍵となる雄性関連遺伝子のサイレンシング(遺伝子の発現抑制)を積極的に行っていることが明らかになりました。

脳の特定の領域、例えば視索前野(交尾行動のある側面を調節する脳領域)には、遺伝子発現等で雌雄差が大きいことがあります。胎児の発達段階で、精巣由来のホルモン(男性ホルモン)にさらされると、メスの脳であっても多数の雄性関連遺伝子が発現するなど脳には雄らしい特徴が誘導されます。これらの遺伝子が雄でのみ発現し、雌ではサイレンシングされる仕組みは不明でした。
今回、視索前野を観察し、雄性関連遺伝子のDNAメチル化により、雄性関連遺伝子のサイレンシングされていることが分かりました。DNAメチルトランスフェラーゼの阻害剤やコンディショナルノックアウトを行うと、雄のラットのような振る舞いをし、遺伝子発現も似ることが分かりました。

今回はラットの結果ですが、同じような制御が人でもあると予想されます。草食系男子なんて呼ばれる人がいますが、彼らは生まれるころに脳のDNAのメチル化が阻害されたのでしょうか。

元の論文
Brain feminization requires active repression of masculinization via DNA methylation
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