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赤血球を使って薬を運ぶ

情報元
Turning red blood cells into cargo ships

赤血球は体中に酸素を届ける役割を担っており、血液中の細胞の大半が赤血球です。赤血球の特徴は細胞核がなく、赤血球の細胞内では新たにタンパク質が作られないという点、一度作られると4か月くらいとかなり長い時間体内で使われる(人の場合)という点、さらに体の1/4を構成するといわれるほど大量にあるという点です。今回、この特徴を生かして赤血球を薬などの運び屋として使えるのではないかという研究の報告がされました。

今回は赤血球に分化する前の赤芽球を使いました。この段階ではまだ核があります。赤芽球の細胞でKellまたはGPA (glycophorin A)というタンパク質(赤血球と赤芽球の両方の細胞表面に存在する)にLPXTG (Leu-Pro-any-Thr-Gly)という配列のタグをついた組換えタンパク質を発現させました。このタグはSortaseという原核生物のみられる酵素のターゲット配列で、Sortaseが来るとタグのTとGの間で切れて、Sortaseのシステイン残基と結合します。さらにグリシンペプチドがあればSortaseは外れ、代わりにグリシンペプチドが入れ替わる作用があります。そこで、in vitroでLPXTGタグ付きのKellまたはGPAを発現させ、Sortaseとグリシンペプチドのついたビオチン(ビオチンはビタミンの一種で、小さい化合物)を混ぜたところ、赤芽球の表面をビオチンで標識することができ、赤血球に分化させても外れませんでした。このビオチン標識赤血球をマウスの体内に入れても赤血球がすぐに死んでしまうことなく、28日程度まで標識赤血球が存在していることが分かりました。もちろんマウスに異常も見られませんでした。この手法では特定の組織や細胞にだけ赤血球を集め、赤血球が運んだきた薬を作用させるという使い方がされる可能性があります。そこで、特定の細胞に赤血球をくっつけることができるか試しました。今回はB細胞の提示するMHC classIIというタンパク質と結合するVHH7にLPXTGを付けたタンパク質と、グリシンペプチド付きのGPAを発現する赤血球とB細胞を混ぜたところ、VHH7-MHC classIIを介して赤血球とB細胞がくっついていることが確認できました。また、人のCD34+幹細胞を用いてSortaseを介した標識に成功しており、人に応用ができる可能性も示されました。

まだまだ実用化への壁はありますが、赤血球をドラッグデリバリーに使うというのはおもしろいアイディアだと思います。情報元の記事では他にも様々な応用ができそうとのことです。

元の論文
Engineered red blood cells as carriers for systemic delivery of a wide array of functional probes
sn-bloodcells.jpg
(画像は情報元の記事より)
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