スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

ウシとコムギのゲノム

今週(というより先週)、酪農、農業において重要なウシとコムギのゲノムに関する論文が発表されました。

ウシの方は1000頭分のウシのゲノムを明らかにしようという、1000人ゲノムプロジェクトのウシ版のドラフトです。解析したウシの種類は酪農に非常に重要なホルスタイン-フリージアン種、フレックフィー種、ジャージー種の3種で、合計234頭分の解析を行いました。このデータを用いてウシの繁殖力減退の主な原因胚死亡、骨格奇形、産乳量、縮毛に関連する遺伝子を特定することに成功しました。このデータをもとに、DNA配列に基づいた品種改良が行えるようになり、品種改良の速度が高まると期待されます。
320px-Jersey_cattle_in_Jersey.jpg(今回シーケンスが行われたウシのジャージー種。バター作りに使う乳を作る。)

コムギの方はコムギ1種のドラフト版です。コムギは世界中で消費されており、食料として非常に重要な植物です。にもかかわらず、意外なことにこれまでゲノムの配列は不明でした。コムギゲノムのシーケンスを阻む問題は、17G(イネの40倍、ヒトの5.7倍)という巨大さと、リピートが非常に多いということもあります。しかし、一番の問題は、現代のコムギは3種類の古代のコムギの交雑種であり、コムギの中で元となった古代のコムギのゲノムがサブゲノムとよばれる7染色体で1セットになった状態で共存しており、サブゲノムが3セットある状態なのです。そのため、配列がどのサブゲノム由来か見分けるのが難しいことです。そこで今回は染色体ごとに分けたうえでシーケンスを行いました。これが非常に労力のいる作業みたいです。結果は意外なもので、それぞれのサブゲノム間の配列が似ており、なくなっている遺伝子もわずかでした。通常、同じ働きをする遺伝子が複数あると、一つを残して消えていったり新しい遺伝子に進化していくことが多いのですが、このような現象が見られない、特殊な進化を遂げてきたことが分かります。なぜ、複数の同一(と思われる)遺伝子を保持し続けているのかは不明です。ちなみにこの研究には、6800万ドル(約68億円)かかったそうですが、コムギの需要を考えたらそれだけの価値はありそうです。日本から農業生物資源研究所、京都大学、横浜市立大学、日清製粉が参加したそうです。
640px-Wheat_close-up.jpg(ご存知小麦。今回はチャイニーズスプリングと呼ばれる品種を使用。研究に良く使われる。)

現在世界では人口が増え続けており、全人口が生きていくのに必要な農作物の量よりも、生産できる農作物の量のほうが少ない状態です。まだまだ人口は増えていくでしょうから、このような研究によって農作物の生産効率を高めることが望まれ、第二次緑の革命とでも呼ぶべき時が来るかもしれません。1940年代から1960年代にかけて起きた緑の革命では農作物の生産量は飛躍的に伸びましたが、一方でそれに対する批判もあります。この研究が第二次緑の革命の原動力になるのか、第二次緑の革命が起きるのが良いことなのかは不明ですが、高収率作物の研究は終わらないでしょう。

元の論文
Whole-genome sequencing of 234 bulls facilitates mapping of monogenic and complex traits in cattle
A chromosome-based draft sequence of the hexaploid bread wheat (Triticum aestivum) genome
スポンサーサイト

テーマ:自然科学 - ジャンル:学問・文化・芸術

白色脂肪細胞は悪いやつ?良いやつ?

情報元
'Bad fat' may be good for cancer patients

脂肪には褐色脂肪細胞と白色脂肪細胞の2種類あり、褐色脂肪細胞はエネルギーを使って熱を作り出し、白色脂肪細胞はエネルギーを貯蔵しています。白色脂肪細胞はベージュ細胞と呼ばれる、褐色脂肪細胞みたいな細胞になることが出来ます。一般に白色脂肪細胞が多いと肥満や糖尿病のリスクが多く、あまり好ましくないものと考えられ、ベージュ細胞化は良いことだと考えられていました。しかし、実は悪液質という症状の原因であり、良いことばかりではないらしいということが明らかになりました。

末期がん患者やAIDS患者などで悪液質(カヘキシア)とよばれる症状を示すことが良くあります。これは脂肪や筋肉の異常な現象を引き起こす複合的な代謝異常症候群です。この病態を示すようになると手の施しようが無く、ちゃんと食事をしていてもがりがりに痩せていき、後は死を待つのみという状態です。今のところ原因は不明ですが、褐色脂肪細胞の代謝が異常に高いことと関連しているものと考えられています。したがって、白色脂肪細胞の異常なベージュ細胞化も関連している可能性があるのです。そこでマウスのがん疾患モデルや人のがん細胞を移植したマウスを調べていくと、悪液質の症状である筋肉の細胞の減少の前に、白色脂肪細胞のベージュ細胞化が起きていました。さらに調べていくと、炎症反応と深くかかわるプロセスと関連があることが分かりました。例えばIL-6という炎症に関連する遺伝子はがん患者で異常値が見られると共に、ベージュ細胞作りに欠かせないものでもあります。そこで炎症反応のプロセスが悪液質に関わっていることから、抗炎症剤を投与しました。すると悪液質の原因となる白色脂肪細胞のベージュ細胞化が止まり、悪液質の症状が改善したとのことでした。

悪液質の症状を示す状態ならもう手遅れ状態とされてきましたが、もしかしたら延命できるようになる日はそう遠い未来のことではないかもしれません。ただ、延命をすればなかなか死ぬことも出来ず、患者は苦しい思いをする期間が増え、家族も看病や治療費の負担が多くなります。個人的には本当に長生きすることが良いことなのかという疑問も湧いてきます。安楽死問題も良く考える必要があると思います。

元の論文
A Switch from White to Brown Fat Increases Energy Expenditure in Cancer-Associated Cachexia
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。